流体力学とは、空気や水の運動を「流れ」としてとらえて、数理的および実験的研究によってその詳細を明らかにすることを目的とする学問です。


 元をたどれば不規則に運動している分子の集合体である空気や水の運動を「流れ」としてとらえることは、2つの事実に基づいています。ひとつは、空気や水を構成する分子の数が大きくなればなるほど、分子集団の振る舞いを少数個の変数で記述できるようにすることです。少数個の変数とは、流体の密度、速度、圧力などのことです。ふたつめは、私たちが、空気や水を多数の分子の集合体として見るような立場にあるということです。宇宙空間には、水素分子あるいは電離した水素が1cm3あたり数個程度の割合で存在します。そのような状況を、私たちが身の丈程度の尺度でながめても、とても「流れ」があるとは認識できません。しかしながら、1光年程度の尺度でながめることによって、銀河形成の過程を流体力学で記述できるようになるのです。銀河形成は機械工学では扱いません。機械工学は、私たち人間が利用するための技術に関わるものであり、それゆえに、私たちが見たり触ったりできる程度の大きさで特徴づけられます。そのような大きさの尺度では、空気や水を構成する分子の数は1023個程度です。このために、私たちは、空気や水の運動を「流れ」として認識するように、自然に導かれてきたのです。


 近年では、見たり触ったりできない程度に小さい技術を利用したくなったり、一部では既に利用できるようになったりしています。そのように小さい世界では、上で述べた2つの事実が当てはまらなくなり、新たに「非平衡」というキーワードが重要性を増してきます。また、そのような小さい世界で流体を運んだり、流体に仕事をさせたりするためには、「非線形」性をうまく活用することが本質的となります。小さい世界以外で「非平衡」で「非線形」な流体力学が特に重要となる領域は希薄な気体で満たされている宇宙空間でしょう。これまでの宇宙開発はロケットの打ち上げが主たる作業でしたが、将来は、宇宙での居住を目指すものとなるはずです。そのときには機械工学の全分野が中心的役割を担うようになると思いますが、『非線形非平衡流体力学』の役割もさらに重要となるでしょう。


 『非線形非平衡流体力学』という言葉は造語であって確立された術語ではありません。そもそも現状では、このような問題を取り扱う理論体系が確立されていないのです。これを基礎づける新しい理論の創成が本研究室の究極の目的です。



2014年度第1学期講義「流体力学」